綾辻行人 05


人形館の殺人


2000/09/27

 本作は、「館」シリーズのようで「館」シリーズではない。その理由は…うーん、完全なネタばれになるなあ。

 綾辻さんご自身、本作をアンビバレントな思いが強い作品であると述べている。作家にとって、作品は可愛いくもあり憎たらしくもあるだろう。一方、読者にとっては可愛いか憎たらしいか、二つに一つである。僕にとっては、本作は憎たらしい作品と言わざるを得ない。「館」シリーズ、否、綾辻作品の中で最も好きになれない作品だ。

 京都の「人形館」に飛龍想一が移り住んだその日から、悪夢は始まった。館には、父が残した怪しい人形たちが配置され、近所では通り魔殺人が続発する。やがて想一自身にも忍び寄る、殺人者の影…。

 例によって舞台設定は魅力的である。館に陣取った異形の人形たち。その配置の絶妙さ、意味深さ。想一の周囲で起こる異変が、徐々にエスカレートしていく過程。シリーズの他の作品同様、読者の期待は高まる。一体どんな結末が待ち受けているのか?

 そして、ラスト…。おいおい、これまでの盛り上がりは一体何だったんだ? ここまで引っ張っておいて、こりゃあないだろう。文庫版解説で、太田忠司さんは以下のように述べている。結末におけるカタルシスの深さにおいて、この作品を凌駕できるものは少ないだろう、と。なるほど、半分は当たっているかもしれない。せっかくの魅力的な舞台が、伏線が、跡形もなく崩壊していった。

 このような結末が効果を上げる場合もあるだろう。しかし、綾辻流本格ミステリーの結末としては大いに疑問である。この後に『時計館の殺人』という傑作が生まれたことは、幸いだったと思う。

 苦し紛れの産物だ、とは言いすぎだろうか?



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