綾辻行人 10 | ||
時計館の殺人 |
「館」シリーズ第5作。宮部みゆきさんの『龍は眠る』と共に第45回日本推理作家協会賞に輝いた、シリーズの集大成的傑作だ。
今回の舞台となる「時計館」の旧館は、108個もの時計コレクションで埋め尽くされている。また、新館にはなぜか針がない時計塔がある。この時計館を訪れ、旧館に閉じ込められた9人の男女に、無差別殺人の恐怖が襲いかかる。事件の背景には、この特異な館で10年前に死んだ、ある少女が関わっていた…。
僕は腕時計を集めるのが好きなのだが、108個もの時計に囲まれた暮らしを想像すると、ぞっとする。108個の時計たちが一斉にカチカチと時を刻み、正時を知らせる音を奏でたら…。考えただけでも身の毛がよだつ。嫌というほど時を意識させられるこの「時計館」旧館には、戦慄すべき罠が仕掛けられている。
「時間」という概念が本作のメイントリックであろうとは思っていたのだが、僕の予想とは大幅に違っていた。このメイントリックは、新館の時計塔に針がない理由と密接に関わっている。ネタばれになるが、普通は「時刻」を意識することはあっても「時間」そのものを意識することはないだろう。盲点をついたこのトリックには、拍手を送るしかない。綾辻さんの言によれば、このメイントリックを思いついたことが本作の出発点になったという。
「時計館」の先代当主である古峨倫典(みちのり)は、娘の永遠(とわ)を溺愛していた。永遠は叶うはずもない夢に憑かれていた。倫典は、永遠の夢を叶えるために、常軌を逸した手段に出る。中村青司が建てた奇妙な館に住む者たちは、皆妄想に捕われている。しかし、古峨倫典ほど歪んだ妄想に捕われた者はいないだろう。
壮大かつ映像的なラストシーンは、本作を締めくくるに相応しい。本作は「館」シリーズとしては最長だが、「時間」を忘れて堪能させてもらった。そんな些細な理由で殺されちゃかなわんわい、とも思ったけど…。
さて、あなたの時計は…大丈夫?