綾辻行人 15

鳴風荘事件

殺人方程式II

2000/05/20

 明日香井響、叶の双子の兄弟が活躍するシリーズの第二弾。前作『殺人方程式―切断された死体の問題』もガチガチの本格と言うべき作品だったが、本作には正式に読者への挑戦状が挿入されている。

 正直に言って、読んでいる間はいらいらさせられた。舞台となる鳴風荘にはなかなか到着しない。やっと到着したと思ってもだらだらとした展開が続く。ようやく事件は起こり、読者への挑戦となるが…。

 普段はあまり考えずにさっさと読み進める僕だが、せっかくの読者への挑戦だし、珍しく考えてみることにした。その結果僕にわかったことは、被害者の所持品と〇〇〇を使って〇〇〇を作ったのではないか、ということくらいであった。犯人を絞り込むことは結局できなかった。

 解決編を読み進めるうちに、僕は大いに唸らされた。さらっと読み流した部分にこそ、重要な鍵が隠されていた。そう、本作には無駄な文章などどこにもなかったのだ。序盤を読み流した時点で、僕の負けは決まっていた。導き出された結論には、当然ながら異論を挟む余地はない。実にフェアだ。

 推理小説と名乗っている作品の多くは、端から読者に推理する余地はない。名作との誉れ高い作品ほど、そのような傾向が強いように思う。だからと言って、本格をレベルの低いものと思われては心外だ。本作のように読者への挑戦状を突きつけた本格は、作者に要求される難易度は格段に高い。与えられたデータから導き出される結論は、一つでなければならない。ラスト近くで「新たな事実」が明かされて意外な結末を迎える、といった甘えは決して許されないのだ。

 文庫版巻末の貫井徳郎さんの解説は、本作の面白さ、レベルの高さを愛情を込めて語ってくれていて嬉しかった。余談だが、僕が貫井さんの作品を読んでみようと思ったきっかけは、実はこの解説にある。



綾辻行人著作リストに戻る