綾辻行人 16


眼球綺譚


2000/09/19

 本格の申し子綾辻行人は、ホラーの申し子でもあった。僕は日頃ホラーを好んで読んでいるわけではないし、むしろこのジャンルには疎い。しかし、本作の面白さは保証する。『殺人鬼』とは違い、誰にでもお薦めしたい。

 本作に収録された7編のホラー短編には、いずれも「由伊」という名の女性が登場するが、同一人物ではない。その役割は様々だが、各編のキーパーソンになっている。

 まずは「再生」―驚くべき再生能力を持つ妻、由伊。その再生能力の正体は? エンディングでいきなり出鼻をくじかれる。続く「呼子池の怪魚」―こちらもエンディングで裏切られるが、あれれ? ホラーというよりファンタジーかな。

 2編続けてエンディングでやられたところで、「特別料理」―食事前には読まないことをお勧めしよう。主人公の嗜好がエスカレートしていくところが読みどころ。そして「バースデー・プレゼント」―雰囲気がいいね。12人でのシュプレヒコールが特にいい。今年の誕生日もいつの間にか過ぎた僕だが、こんな誕生パーティーは嫌だな…。

 「鉄橋」―楽しいはずの鉄道の旅。あくまで怪談のはずだったのだが…。「人形」―人形はホラーのモチーフとしてよく用いられる。人形が人間を襲うなんていうのはよくあるパターンだが、綾辻さんが料理すればこうなる。

 表題作「眼球綺譚」読んでください。夜中に一人で。作中作になっているこの短編を読み終えて、ふと誰かに見つめられているような錯覚に捕われた…なんてことはなかったが、京極夏彦さんが手がけた文庫版の装丁は見もの。い、痛い…。

 うーん、長編のホラー作品を読んでみたいね。



綾辻行人著作リストに戻る