綾辻行人 17


フリークス


2000/06/17

 精神科病棟を舞台にした、3編からなる中編集。"freak"とは畸形、異形といった意味を持つ。ここでは、「四〇九号室の患者」を除く2編について触れることにする。

 表題作である「フリークス―五六四号室の患者―」は、サイコサスペンスである一方で、本格ミステリーでもある特異な一編だ。ある入院患者が書いたという原稿は、次のような一文で結ばれていた。

「J・Mを殺したのは誰か?」

 この原稿を精神科医から託されたという小説家の男は、友人である探偵に感想を求める。作中作になっているこの原稿の内容は、実に荒唐無稽だ。自身の容姿に対して異常なまでの劣等感を抱えるJ・Mは、優越感に浸るために驚くべき手段に出る。自分より醜い者を、そばに置いておけばいいのだ…。

 J・Mは、同居していた五人の畸形児たちの一人に殺される。作中作は、J・Mを殺害した真犯人を推理する本格ミステリーである。しかし、読み進むにつれて、この作中作に隠された意味が徐々に浮かび上がる。何と表現したらいいのだろう、このねっとりと絡みつくような不快感を…。しかし、不快だが不愉快ではない。こんな作品は、綾辻さんにしか書けない。

 「夢魔の手―三一三号室の患者―」は、ある子供が書いた日記が織り交ぜされている。その子は、夜毎悪夢にうなされる苦しみを日記上で吐露していた。彼を苦しめる者の正体は…。ここでも「畸形」がキーワードになっている。最後は、どんでん返しの連続で終わる。これまた、綾辻さんにしてやられた。

 異形の者たちに彩られた、この妖しき3編を読んで、あなたも眩暈に襲われてみませんか?



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