綾辻行人 27


深泥丘奇談・続


2011/03/24

 奇妙に味わい深い連作短編集『深泥丘奇談』の続編である。今回も、深泥丘に住む本格推理作家の「私」は、度々「深泥丘病院」に駆け込み、あるいは運ばれる。

 前作を思い起こすと、1編1編の完成度よりは各編の繋がりによって独特の深泥丘ワールドが形成されていたように思う。今回は、各編の繋がりは少ない。しかし、各編の完成度が高く、単独でも味わい深いのだ。綾辻先生、偉そうな分析ですみません。

 前作のパターンは一貫しており、深泥丘病院の医師から珍しいイベントに誘われ、妻に話すと、「わたしより長くこの町に住んでいるくせに知らなかったの?」と言われ…というものだったが、本作ではその基本パターンは崩れている。妻に話しても知らなかったり、妻には見えないものが見えたり…。もちろん、妻は知っているという場合もある。

 妻は知らない名もなき神社の「鈴」が鳴る。某作品集の某編を彷彿とさせるグルメもの「コネコメガニ」。その正体は…。「狂い桜」が咲く年に行われる悪趣味な儀式。「心の闇」などと安直に言うけれど、こんな風に治療できればいいのにねえ。

 個人的な一押し、「ホはホラー映画のホ」。「私」が登場しない番外編的1編だが、遊び心と結末の不条理さが見事。恐怖の「深泥丘三地蔵」にご利益はあるか? 再び「私」が登場しない「ソウ」。じゃあ一体何なのさ…。「切断」の計算を合わせるには、つまり…。考えるだけで嫌だ嫌だ「夜蠢く」。最後の「ラジオ塔」は、どちらかというとファンタジーか。

 今回は全10編中、「幽」以外の媒体に発表された作品が4編ある。「心の闇」「ホはホラー映画のホ」「深泥丘三地蔵」「切断」である。中でも出色は「ホはホラー映画のホ」と「切断」で、これらの作品が全体の幅を広げるのに大きく寄与しているように思う。

 この愛すべきシリーズはさらに続くそうである。長編のため簡単に続編が出せない「館」シリーズに対し、深泥丘シリーズはいい意味で肩の力が抜けているのではないか。その割に、作中の「私」の症状は深刻化しているように感じなくもないが…。

 何はともあれ、綾辻さんには自分のペースで続けてほしい。



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