遠藤武文 01 | ||
プリズン・トリック |
第55回江戸川乱歩賞受賞作品である。個人的に、乱歩賞受賞作品に惹かれることはほとんどないのだが、本作を手に取る気になったのは、現日本推理作家協会理事長で乱歩賞選考委員でもある東野圭吾さんの、帯の一文が大きい。曰く、
乱歩賞史上最高のトリックだ。
ところが、東野さんの選評を読んでみると、「どうにもならない大きな傷があまりにも多い」という。逆に俄然興味が沸いてきた。なぜなら、傷を補って余りある魅力が、本作にはあったということなのだから。社会派作品が多い中、トリックをメインに据えた作品をぶつけてきた。この心意気が、最終的には選考委員各氏を動かしたのだろう。
さて序盤。知られざる市原交通刑務所の内部や、受刑者たちの生活の様子は、読み物としても興味深いが、刑務所内での殺人事件発生というのは前代未聞である。しかも密室殺人。いきなり大風呂敷を広げて、どう決着させるつもりなのか?
うーむ、序盤から無理を感じる点は多々あるよなあ。何より、このトリックが成立する前提に無理がありすぎる。それらに触れることはネタばれになるので、僕が感じた(誰もが感じるだろう)疑問点については突っ込み編にまとめておいた。
実現可能性はともかく、ミステリーとしての大きな問題点は、選評でも指摘されている通り、視点人物が多すぎることだろう。一人称と三人称が混在する上に、必須とは思えない人物も多く、かなり読みにくい点は否めない。実際何度も読み返した。
そこを耐えて終章近くに至ると、ようやく繋がりが見えてくる。納得できるかどうかはさて置き、一応説明はされているし、ぎりぎりの線で破綻はしていない。選考委員各氏の言う「志の高さ」とは、読者を楽しませようとするサービス精神なのではないか。
確かに瑕疵を挙げていったらきりがないが、僕は本作に好感を抱いた。もっと無難に、より現実的にまとめることもできたかもしれないが、それでは本作が有するエネルギーが失われ、受賞できなかっただろう。と、最後のページをめくると…へ???