遠藤武文 02 | ||
トリック・シアター |
江戸川乱歩賞に限らず、新人賞受賞後の第1作は受賞作ほど売れないものだ。作家になるより作家を続ける方が難しいとは、誰の言葉だっただろう。そんな中、この作家の乱歩賞受賞後第1作は、必ず読もうと思っていた。
空前の劇場型犯罪が幕を開ける。
当初の予定より遅れて刊行された本作の帯には、またもや強気の一文が踊る。タイトルにはまた「トリック」の4文字。同一犯による東京と奈良での同時殺人。閉鎖病棟内での密室殺人。期待に胸躍らせ…ではなく、不安一杯で読み始める。
うーむ、前作もトリックを前面に出す宣伝戦略だったが、2度目となると逆効果だ。厳しい声が圧倒的だった前作は、欠点もまた魅力のうちと好意的に受け止めていた。しかし、本作は欠点は欠点でしかない。詳しくはネタばれのぼやき編を参照。
前作の大きな欠点だった視点人物の多さは、1人の刑事に統一して改善されたが、関係者が多すぎるのは相変わらず。特に、被疑者の大学時代の映画サークルの関係者。そりゃ「メッセージ」を成立させるためにはこの人数が必要だろうけども…。
警察庁「裏店」のキャリア警視正の我孫子が捜査の指揮を執る。警察庁のキャリアが自ら現場に出るというのもあり得ない話だが、そのキャリアが自室で水素エンジンの研究をしているというのもこれまたあり得ない。でも、そんなことは些細な問題だった。
本作の大きな突っ込みどころは2つあるが、そのうちの1つに簡単に触れておく。そっちの方がはるかに劇場型犯罪だろうがっ!!!!! しかも何だよその裏はっ!!!!! もう1つの方は…その戦略は吉と出るか凶と出るか。
前作を読んだ時点では、遠藤さんの才能を確信していたが、本作を読み終えると…ごほんごほん。少なくとも、被疑者の男に映画の才能はなさそうだ。