トリック・シアター

〜ぼやき編〜


 ……同一犯による同時殺人なんてあり得ないのは最初からわかっている。しかし、「同時殺人」と判断した理由が、死亡推定時刻以外には遺留品だけだとは思わなかったぞ。このしょぼいトリック(とは到底言えない)でタイトルが『トリック・シアター』というのは看板に偽りあり。おそらく編集部の方針でつけたタイトルと思われるが。

 そんなことよりだ。公安の肩を持つ気はないけども、地下鉄同時爆破テロの実行犯が公安だったというのはさすがにどうよ。数百人単位の犠牲者が出ているのだ。しかも、知ってしまった刑事は始末される。作家として、想像力が逞しいのは悪いことではないが、小説の中とはいえそこまで警察は腐っていないと思いたいぞ。

 で、その刑事が始末されるシーン。見開き一杯に血飛沫を描いているのは面白いアイデアだが、前のページから透けて見えるのがとっても間抜け。紙の書物の弱点をこんな形で露呈させるとは。こういう演出には電子書籍が向いているかも。

 秘密を知る一部の者の間では「マルエスハーイチヨン」と呼ばれる、爆破テロの関係者・清水国明。彼は、同時殺人の被疑者である冨樫長道ともども、花巻病院で殺された。ところが、岩手県警にはマル害は冨樫だけと発表させる。もう一人のマル害など存在しないし、捜査もさせない。いくら警察庁でもそこまでの権限があるか???

 しかも、犯人は堂々と花巻病院の病室に侵入し、殺害後は岩手県警の捜査員でごった返す花巻病院から堂々と脱出している。あの程度の偽装で。何が密室殺人だっての。岩手県警にしろ、実在する国立病院機構・花巻病院にしろ、ここまで管理が緩いように描かれるのは、不本意に違いない。

 そして最後に…戸田和義なんて名前はすっかり忘れていたが、『プリズン・トリック』の事件の首謀者だった。その戸田が、今回の事件の首謀者でもあるという。いきなり前作と繋がって唖然とした。いかにも続編がありそうな結末だが、このままシリーズ化を目論んでいるのか。何人の読者が見放さずについてきてくれるだろう。



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