藤原伊織 01


ダックスフントのワープ


2000/11/13

 藤原伊織さんのデビュー作が、本作に収録された中編「ダックスフントのワープ」であることは、あまり知られていないだろう。『テロリストのパラソル』が江戸川乱歩賞、直木賞同時受賞となったのを機に、重版されたようである。

 しかし、『テロリストのパラソル』の読者が、藤原作品だからという理由で本作を読んだら、当てが外れたと思うかもしれない。その作風は、既刊の長編作品とはまったくの対極にあるのだから。

 全4編の作風は、これからの季節に相応しく、冷たく乾いている。淡々と事実のみを綴った新聞記事のような印象を受ける。そこには過剰な演出はない。

 ハッピーエンドの予想を裏切り、あっさりと悲劇の結末を迎える表題作。しかし、すんなりと現実として受け止める主人公。もちろん、実際にこんな事態に直面して感情が乱れないはずはない。現に僕は、一瞬言葉を失った。

 続く「ネズミ焼きの贈りもの」。凄惨な事故死を遂げた男と、その親友だったという主人公。発見時の様子を事もなげに語る妹を、訝しく思うだろう。事故死した兄の奇怪な行動に、眉をひそめるだろう。だが、すべては事実として語られるのみ。

 これらの人物たちが、努めて平静を装っていると解釈することもできるが、どのように解釈しようと冷徹な印象に変わりはない。文春文庫版に追加収録された「ノエル」、「ユーレイ」においても然りである。

 僕がこれまでに読んだ作品のほとんどは、ミステリーだ。謎があって、伏線があって、最後に解決があるという展開に慣れてしまっている僕には、難しい作品集だったかな。純文学に通じている方ならば、行間から何かを感じ取るのかもしれないが。



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