藤原伊織 04


雪が降る


2000/09/06

 傑作『テロリストのパラソル』の文庫版解説の中に、気になることが書かれていた。アル中バーテンダーの島村が登場する短編が存在するというのだ。以下、その気になる短編「銀の塩」を含む6編を、簡単に紹介しよう。

 「台風」―吉井卓也のかつての部下が、上司を危うく殺しかけた。彼はかつて、一度だけ人を殺した男に出会ったことを思い出す。成果を上げられない男がささやかな趣味を奪われた悲しさ。そして、本当の夢を断たれた男の悲しさ…。

 「雪が降る」―食品会社に勤務する志村秀明宛に、「雪が降る」というタイトルの電子メールが届いた。文面は、「母を殺したのは、志村さん、あなたですね」。ネチケット違反も甚だしいこのメールが意味するものは…。

 「銀の塩」―島村とイスラム圏出身の青年ショヘルの交流を描いている。島村の暖かさに触れてほしいとだけ言っておこう。島村は思う。私は平和な夢など見ない。見たことがない…。時は、『テロリストのパラソル』の事件の少し前。

 「トマト」―わずか10ページのこの掌編は、実にシュールで、実にキュートだ。藤原さんの意外な顔が垣間見える。

 「紅の樹」―本作中最も長いこの作品は、長編作品の作風に近い。タイトルが意味するもの…それは約束を果たした男にしか見えない、真っ赤に燃える木。

 「ダリアの夏」―かつて夢を追っていた孝志と、今現在夢を追っている章一少年。孝志は、これから新たな夢を追うのだろうか。そして、章一少年の両親は…。

 随所に藤原さんのうまさが光る、全6編。急いで読むのはもったいない。ちっとも感想になっていないか…。



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