深水黎一郎 01 | ||
ウルチモ・トルッコ |
犯人はあなただ! |
"ULTIMO TRUCCO"というイタリア語のタイトルは、「最後のトリック」とでも訳せばいいのだろうか。久しぶりに手に取った、第36回メフィスト賞受賞作品である。
前回手に取った第24回メフィスト賞受賞作品、北山猛邦著『『クロック城』殺人事件』は、トリック命の一発芸的作品だった。本作もまた、トリック命。こういう作品は作者にとってリスクは大きい。浴びるのは拍手喝采か罵詈雑言か。それでもチャレンジする心意気を、僕は買う。もちろん、読者にとってもリスクは大きいわけだが…。
あらゆる「意外な犯人」が使い古された現在、残されたネタは読者自身が犯人であること。作中、ある推理作家に届いた手紙によると、「読者が犯人」であるトリックを思いついたので買ってくれという。どう考えても、メタな匂いがぷんぷん漂う。
どうやって決着させるんだと戸惑いながら読んでいたが、色物作品にありがちな雑さはまったくなかった。アクのない(悪く言えば個性がない)洗練された文章で、実に丁寧に作り込まれている。一見関係なさそうなエピソードは、すべて伏線なのだ。
例えば、超心理学の実験におけるあるトリックは、本題とは別に感心に値する。手紙に同封された私小説的な覚書は、それ自体が興味深いし、「最後のトリック」実証のためには必要だった。いつもぞんざいに応対する保険会社の人の話、たまには聞こうかね。
さて、島田荘司氏が認めた肝心のトリック。吃驚仰天うわあやられたあぁぁぁ! …とまでは思わないが、なるほどそういう手もあるのだなと感心した。構成力と作り込みの丁寧さを考慮すれば、個人的には許容範囲内である。
問題は、トリックそのものではなく、トリックが成立するための「前提条件」を許容できるかどうかではないだろうか。俺は犯人じゃないね! と言い張る読者も多いと思う。探偵小説研究会辺りがどう評価するかが注目される。というか次どうする?