深水黎一郎 09


美人薄命


2013/03/27

 深水黎一郎さんの新刊は、アカデミックな要素を極力排したという点では勝負作なのだろう。少なくとも、前作『言霊たちの夜』のようにふざけてはいない。

 大学生の礒田総司は、ボランティアの給食配達で、片目の視力を失い孤独に暮らす老婆に出会う。何度か通ううちに親交が深まり、ある日老婆は、愛した人との今生の別れについて語り始めた。あまりにも残酷な運命に、総司は…。

 まず最初に苦言を呈したい。本作に限ったことではないが、「壮絶な純愛ミステリー」とか「至高の本格ミステリー」とか、帯に仰々しい売り文句を並べすぎだ。深水作品の1ファンだから手に取ったが、これでは読む前からハードルが高くなってしまう。

 序盤から旧字体・旧仮名遣いの文章が出てきて戸惑う。読みにくい上に内容が重く、先が思いやられる。ようやく現代文が出てくると、今度はやたらと砕けた印象を受けて戸惑う。薀蓄ミステリーの雄らしくもない。それというのも、総司のキャラクターが大きい。

 そもそも総司がボランティアを始めたきっかけは、再提出を求められたレポートのネタのため。1浪している総司は、留年だけは避けたかった。それでも投げ出さないだけ真面目と言えるが、今時の若者には違いない。長く続ける気もなかった。

 そんな彼が、老婆に感情移入し、彼女の話に本気で怒りを覚えるのはなぜだろう。あの件で受けたショックも一因か。根は純粋な若者なのだろう。少なくとも、ボランティア精神に目覚めていく総司に、不自然さを感じた僕よりは。

 高齢化社会、戦争、歴史、政治。帯にあるように恋愛小説ともミステリーとも読める。色々なテーマを含み、考えさせられる作品だとは思う。しかし、いずれのテーマについても中途半端と言わざるを得ない。何しろ、読む前からハードルが高かったのだから。

 終盤になると、総司はすっかり人格者になっていて、僕としてはただ平伏するしかない。真相については漠然とそんな気はしていたが…。最後に総司が向かった場所に、僕は一度も立ち入ったことがないが、何だか立ち入る資格がないように思えるのだった。



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