原 りょう 03


天使たちの探偵


2001/03/01

 私立探偵沢崎シリーズの短編6編を収録した、連作短編集である。

 各編に共通しているのは、いずれも未成年者が絡んでいること、そして沢崎が常に損な役回りを演じていることである。何だか沢崎のぼやきが聞こえてくるようだ。

 「少年の見た男」では、心を痛めた年端もいかぬ少年に…
 「子供を失った男」では、芸術家志願の尖がった若者に…
 「二四〇号室の男」では、母を思いやる蓮っ葉な少女に…
 「イニシアルM≠フ男」では、悩める人気アイドルに…
 「歩道橋の男」では、凶悪犯罪者とされる少年に…
 「選ばれる男」では、少年補導員の手を焼かせるが憎めない少年に…

 結局は振り回され、無料奉仕をしてしまう。ドライなようでドライになり切れない、沢崎という男の不器用さ、人間臭さ。タイプは違えども、東野圭吾さんの作品にしばしば登場する加賀恭一郎刑事と同様に、真っ直ぐな男である。

 現実の探偵なんて決してかっこいいもんじゃないという周知の事実を、沢崎はわざと体現しているように思える。しかし、その試みは失敗している。沢崎と関わった人間たちは、むしろ沢崎に惹かれているのだから。もちろん、読者も含めて。

 僕自身は肯定派だが、逆に作者の計算高さが鼻につくという方もいるかもしれない。探偵としては正攻法すぎるし、駆け引きがうますぎる嫌いはある。でも、それでいいじゃない。ハードボイルドってそういうもんでしょ?

 文庫版の最後に書き下ろしで収録された掌編「探偵志願の男」では、沢崎が探偵という職業に就くに至った経緯が語られていて、興味深い。このネタで長編にする予定は…ないんだろうなあ。



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