原 りょう 06


愚か者死すべし


2004/12/14

 作家なら誰でも、いかに面白い作品を書くかに腐心する。原りょうさんは、実に約10年ぶりの新作となる『愚か者死すべし』を刊行するまでの間、より優れて面白い作品を、より短時間で書くための執筆方法と執筆能力の獲得に苦心を重ねていたそうである。

 実際の経過時間と同じだけ、作中でも時間が流れている。しかし、沢崎という男は変わっていない。前作が刊行された1995年に携帯電話を持っている人間は限られていたが、これだけ普及した現在でも持っていないとは。探偵稼業でありながら、である。

 力が入って当然のところながら、長さは普通という点がいい。少々古臭いタイトルがまたいい。今回も新宿署地下駐車場での発砲事件を発端に、ノンストップの展開を見せる。日本の政治体制を左右するあるシステムに驚くやら呆れるやら。これだけでもネタとして十分なのに、やがて浮かび上がる発砲事件の真相。そして最後の最後に…。

 思うに、原りょうという作家は完璧主義かつサービス精神旺盛なのだろう。一つの事件が複数の顔を持ち、また複数の事件が絡み合う、スピーディーかつ予測不能の展開。納得できるまで何度も何度もプロットを練り直す。というのは勝手な想像だが。

 そこが原作品の魅力であると理解はしているが、物語の焦点が分散してぼやけてしまう点も否めない。もっとシンプルでもいいのに。難しく考えなければいいのに。探偵沢崎の存在感があれば。一方で、こうも思う。世の中にはシリーズものの多作を強いられる作家がいる。早川書房でなければここまで待ってはくれなかっただろう。

 沢崎の浮世離れした人物設定も幸いだった。時代の流れと無縁な男だからこそ、10年ぶりに登場しても違和感がない。皮肉交じりの彼の台詞は、10年ぶりだからどうしたっていうんだと言っているように相変わらずだ。

 短時間で書くことができたことは、本作に続く新シリーズの第二作、第三作の早期の刊行をもって証明するという。原さんと早川書房に敬意を表しつつ、次作を待つ。



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