畠中 恵 09


うそうそ


2009/07/17

 しゃばけシリーズ第5作は、デビュー作にして第1作の『しゃばけ』以来となる長編である。第4作まで読んでみて、しゃばけシリーズは短編向きであると僕は感じていた。本作『うそうそ』を読み終えて、やはり短編向きだと強く思ったのだった。

 今回は、相変わらず寝ついてばかりの一太郎が何と箱根へ湯治の旅に行く。現在ならロマンスカーであっという間に着く距離だが、当時は歩いて丸2日の距離。小田原までは船で行けるが、その先は険しい山道である。ひ弱な一太郎が行くとなると、万一に備えてたくさんの荷物が必要となる。仁吉と佐助に加え、兄の松之介も同行するが…。

 何ともはや、突っ込みどころだらけで読み終えて苦笑してしまった。まあしょうがないかと思えるのは鳴家(やなり)たちのおかげに違いない。

 出発して間もなく、一太郎は仁吉・佐助とはぐれてしまう。一応理由は説明されるのだが…どう考えても任務放棄だろうが、仁吉よ佐助よ。再び合流するまでに侍にさらわれるわ、天狗に襲われるわ…一太郎には気の毒だが、笑うしかない。

 色々な意図が、一太郎の知らないところで絡み合う。終わってみれば、すべては誤解だったということになるが…あのね、こんなことなら最初から話し合いで解決することはできなかったのか? というか、ただでさえひ弱な一太郎をこんな危険な目に遭わせるくらいなら、いっそ旅の中止という選択肢はなかったのか?

 そんなことを言い出したら、水戸黄門が最初から印籠を出すようなもので(そういえば一太郎は印籠を持っていた)、物語にならないのはわかっちゃいるのだが、突っ込みたくて突っ込みたくてしょうがない。長編にするほどのネタとは思えないのだった。

 何より突っ込みたいのは、ちっとも養生になっていないことだ。頭を怪我した上に最後まで酷使され、湯治の一つもできない一太郎。畠中さんもお人が悪い。江戸に帰ったら、この顛末を籐兵衛とおたえにどう説明するつもりなのだろうか…。



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