東川篤哉 01 | ||
密室の鍵貸します |
東川篤哉さんは、石持浅海さんと同様、光文社カッパ・ノベルスの新人発掘プロジェクト〈KAPPA-ONE〉からデビューしている。石持浅海さんが着実に地位を確立する一方、東川篤哉さんの名は本格ファン以外には浸透していなかった。
そんな中、昨年刊行された『謎解きはディナーのあとで』は、一般読者にも読みやすく、売り上げも好調なようだ。しかし、人物同士の掛け合いが面白いと評価する読者が多い一方、本格としての満足度はさほど高くないというのが僕の正直な感想だった。
本作は東川さんのデビュー作だが、結論から言うと、本格としての満足度が極めて高い。解説で有栖川有栖氏が指摘する通り、ガチな本格である。
烏賊川市(いかがわしい?)に住む大学生の戸村流平は、ある日事件に巻き込まれた。元恋人の由紀が、背中を刺された上に4階から突き落とされて死亡。同夜、流平は先輩・茂呂の部屋を訪ねていたが、彼が気づかない間に茂呂は浴室で刺殺されていた…。
現場は密室状況で、流平が容疑を晴らすには真相を明らかにするしかない。流平は元義兄で探偵の鵜飼を頼るが、調査を進めるほど密室状況が裏付けられる…。一方、砂川警部と志木のコンビは、流平の足取りを追っていたが、ことごとく行き違いに…。深刻な事件の割に、登場人物は皆とぼけた味を出している。
ところが解決編に至ると、そんなとぼけた人物たちが、鋭い推理力を発揮する。実は、結末にはあまり期待していなかったのだが、これは素直にやられたと思った。まさかそんなところに伏線があったとはっ! 軟派なようで実は硬派だったのだ。
ユーモアミステリと称されているが、ユーモアが本質というわけではない。あくまで本格で勝負。なめてかかった分だけ驚きは大きい。そのためのユーモアなのか?
デビュー作にして、本格の可能性がまだまだあることを示してくれた。烏賊川市を舞台にした作品はシリーズになっているという。読み進めるのが楽しみだ。今にして思えば、ユーモアの部分に力を入れたのが『謎解きはディナーのあとで』だったのだろう。