東川篤哉 05


館島


2011/07/02

 東川篤哉作品として唯一の東京創元社刊である本作は、シリーズものの人気に埋もれてあまり注目されていないが、実は超弩級の大作なのだった。

 瀬戸内海の孤島に建てられた別荘で、建築家の十文字和臣が謎の死を遂げた。それから半年後、未亡人の意向で再び別荘に集められた事件関係者たち。そこで新たな殺人事件が発生した…。嵐が警察の到着を阻む中、謎の解明に動き出す2人。

 「嵐の孤島」ものにして「館」もの。王道というか、実にベタな舞台設定。多くの名だたる手練がこのパターンに挑んできたが、現代本格の旗手・東川篤哉に勝算はあるのか? ぎゃははははは、結論から言うと、私の完敗でございました。

 島に到着した序盤からドタバタが繰り広げられるが、東川作品も読み慣れたせいか、むしろ東川作品としてはユーモアが控え目に感じられる。休暇で訪れていた若手刑事と、女性の私立探偵というコンビもやや地味。『謎解きはディナーのあとで』で東川ファンになった人には、そういう点では物足りないかもしれない。

 真相が明かされるまでの展開は、正直やや退屈である。読み終えてみれば伏線が隠されていたことがわかるのだが。実はあまり真相に期待していなかった。ところがところが、何だよそれ!!!!!!!!!! この真相のために場をもたせてきたのだ。

 ぶっちゃけた話、本作は一発芸作品であり、バカミスでもある。「ネタ」に価値を見出せなければ評価は極端に低くなるだろう。バカミスが嫌いではない僕は、このネタを使った東川さんと、刊行に踏み切った東京創元社の英断に拍手したい。

 文庫版解説の通り、現代では物理トリックの名手として思い浮かぶのは北山猛邦さんくらいである。東川篤哉さんは必ずしも物理トリックを用いるわけではないが、やはりトリックの名手。本作には、「城」シリーズに代表される北山作品と同じスピリットが流れている。

 なお、本作の時代設定は198X年。ある有名建造物の完成前である。しかし、この別荘を建てる方がはるかに高い技術を要する気がするが…。



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