東川篤哉 06


交換殺人には向かない夜


2011/02/06

 烏賊川市シリーズとしては4作目になる本作。タイトルで交換殺人であると堂々宣言している。ということは、当然ミスリードがあるに違いない。

 いつもはほとんど自分で考えない僕だが、疑いの目を向けながら読み進めた。それでもやっぱり完敗だった。そりゃそうだろう。自信がなければ、交換殺人であるとネタを明かすはずがない。相変わらず軽い乗りながら、極めて精緻な本格なのだ。

 不倫調査のため、使用人として山奥の邸宅に潜入した私立探偵・鵜飼杜夫。十乗寺さくらに誘われ、彼女の友人の山荘を訪れた鵜飼の弟子・戸村流平。寂れた商店街で起きた女性刺殺事件を追う刑事たち。記録的な雪の中、3つの視点がどう繋がるのか?

 順番を飛ばして読んだので、流平が大学を中退したのも鵜飼に弟子入りしたのも知らなかった。そして、鵜飼と流平が別行動というのもシリーズとしては変則的らしい。そこに何かあるに違いないとは、容易に察せられたのだが…。

 現場が大雪といえば、いわゆる「吹雪の山荘」物や密室物を連想するが、殺害方法自体に何のトリックもない。いかに事件の構図を描き出すかがポイント。もっとも、作中の人物たちは、自分たちが関わった事件以外は解決編の直前まで知らない。

 かなり無理矢理な演出で第1の接点は明らかになる。ま、ユーモアミステリですから。第1の接点は薄々わかっていた読者もいるだろう。僕は薄々もわからなかったが。では、第2の接点はどうか。個人的にはこちらの方がやられた感が強かった。

 負け惜しみのようだが、1つ1つは定番の手法なのである。これらを個別に使われると、引っかかったくせに、ああまたかよと思ってしまう。しかし、定番の手法もうまく組み合わせればこれほどの相乗効果と驚きをもたらす。

 本作は、『密室の鍵貸します』とは違った、本格の可能性を示してくれている。このシリーズは、もっと登場人物のキャラが立っていれば固定ファンが増えるように思うが、敢えてそういう方向に走っていないのが潔いではないか。



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