東川篤哉 11


放課後はミステリーとともに


2011/02/28

 それにしても、『謎解きはディナーのあとで』が大プッシュされている昨今である。広告を見かけない日はないし、書店にいけば大量に平積みされている。個人的にはやや辛い評価をしたが、本格の作品がこれほどまでに売れるのは異例だろう。

 鯉ケ窪学園探偵部シリーズの第3作に当たる本作は、『謎解きはディナーのあとで』を気に入った人ならきっと楽しめるだろう。連作短編集かつキャラクターの妙で読ませる点も共通している。そして、本格としてはやや薄味である点も…。

 主人公は、私立鯉ケ窪学園高等部の探偵部に所属する、霧ケ峰涼。何だかエアコンのような姓である。そういえば最近CMを見ないな。

 第1話「霧ケ峰涼の屈辱」からお読みいただくようお願いいたしますという但し書きがある。で、その「霧ケ峰涼」の屈辱。見取り図まであって最初から本格的だぞ。しかし…それ反則っぽくない? さらに、またかよおい!

 「霧ケ峰涼の逆襲」。芸能カメラマンが知る由もなかった真相。確かにあり得るよな…。「霧ケ峰涼と見えない毒」。毒殺トリックの新たな形。そういう習慣は普通ないよな…。「霧ケ峰涼とエックスの悲劇」。UFOの正体見たり…何てこった。

 「霧ケ峰涼の放課後」。不良の荒木田君がなぜか憎めない。「霧ケ峰涼の屋上密室」。最も事件らしい事件。因果応報とだけ言っておこう。「霧ケ峰涼の絶叫」。どこまでも勘違いな自称陸上部のホープ、足立君がなぜか憎めない。

 そして最終話「霧ケ峰涼の二度目の屈辱」。おや、第1話と同じ平面図が? 荒木田君が再登場。トリックも動機の面も興味深い。本作は賑やかに幕を閉じる。

 謎を解くのは顧問の先生だったり友人だったり、必ずしも霧ケ峰涼ではないが、パワフルなキャラクターは魅力いっぱい。脇役陣との絡みも面白く、ユーモアの部分も素直に楽しめた。肝心の推理がやや直感的であるのは否めないが、トリックには創意工夫が感じられる。派手さはないが、ファンの裾野を広げるにはこのくらいがいいのかも。



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