東川篤哉 15


魔法使いは完全犯罪の夢を見るか?


2012/09/30

 東川篤哉さんの新刊は、待望の新シリーズSTART!! なのだそうだが…。

 主なレギュラーは3人。美貌の女性キャリア椿木綾乃警部。その部下で、椿木警部に責められたいM気質な小山田聡介刑事。そして…魔法使いの少女マリィ。おいおい、魔法使いかよ! しかも、ほうきに乗って空を飛ぶとか『魔女の宅急便』かよ!

 マリィは探偵役ではない。当然である。魔法で自白させられるのだから、推理なんて必要ないのである。しかし、警察は物証もなしに送検できない。魔法使いが犯人を指名し、警察が何とか供述の矛盾を探す、という構図がミソ。

 全4編とも、序盤に犯行シーンが描かれ、読者には犯人がわかっているコロンボ型である。東川作品としては珍しいが、東川作品だけに、『刑事コロンボ』のような緊張感はない。いっそのこと、魔法で全部解明しろよというのは、やっぱり禁句だろうか。

 「魔法使いといかさまの部屋」。某有名古典ミステリを彷彿とさせる犯行現場。元ネタも苦しい作品だったが、さらに苦しい。「魔法使いと失くしたボタン」。嘘を取り繕うためにさらに嘘をつき…。真犯人の「しまったぁぁぁ!!!」という心の声が聞こえそうだ。

 「魔法使いと二つの署名」。かつては売れっ子だったものまね芸人が見せた、ものまね魂。すべて完璧なはずだったのだが…。「魔法使いと代打男のアリバイ」。弱小球団を長く支えたベテラン選手。一世一代の打席で、会心の当たりのはずだったが…。

 真犯人が陥落する証拠は、全4編とも意外性があって面白い。しかし、すべて後出し情報なのはちょっといただけない。確信犯的にやっているとは思うが、東川篤哉の本格といえば、あくまでガチンコ勝負がモットーだったのではないか?

 さらに辛辣に言わせてもらうと、『謎解きはディナーのあとで』のキャラクターを変えただけという気もしないでもない。そもそも、魔法使いは必須の要素なのか? という、それを言っては身も蓋もない疑問も浮かぶ。シリーズとしてやっていけるのか…。

 ユーモア・ミステリという枠にはめられ、東川篤哉さんは窮屈ではないか?



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