東野圭吾 33


名探偵の掟


2000/05/13

 大いに笑っていただきたい。面白い。面白すぎて腹筋が痛い。僕は二度読んで二度とも大笑いした。

 本作は、密室、アリバイ、ダイイングメッセージといった本格ミステリーにおけるあらゆるお約束を、徹底的に茶化しまくった痛快連作短編集だ。中には、明らかにあの作家のあの作品を指しているのではないかと思えるものもある。主人公である「頭脳明晰、博学多彩、行動力抜群」の名探偵は、その名も天下一大五郎。おいおい…。

 本作は、ギャグとして面白いのはもちろんだが、ミステリー全般の現状に対する痛烈なアンチテーゼでもある。実際、文庫版解説では大真面目な本格ミステリー論が展開されている。しかし、この解説を先に読んでしまったら読者は興趣を削がれるし、きっと楽しさも半減するに違いない。ここは堅いことを考えずに、先入観抜きで読むのが粋というものだろう。どうせ読むなら、楽しく読まなきゃ損である。

 念のために言っておくと、東野さんは本格ミステリー自体を否定しているわけではない。本作で扱った数々のお約束も含め、本格ミステリーは一定の形式に則って成立しているジャンルなのだから。実際、東野さんご自身、本格の雰囲気が漂う作品を多数書いている。

 僕は本作に、東野さんの本格ミステリーへの愛情を感じる。愛情があるから、逆説的にこんな作品が書けるのだろう。悪意を込めた作品だったら、こんなに面白いはずがない。

 本作の姉妹編として、『名探偵の呪縛』という作品が文庫書き下ろしで刊行されている。セットで読めば、楽しさが倍増すること間違いなしだ。ただし、必ず「掟」→「呪縛」の順に読んでほしい。



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