東野圭吾 37 | ||
名探偵の呪縛 |
傑作『名探偵の掟』の姉妹編。愛すべきキャラクター、天下一大五郎が長編で再登場である。続編…と言えないこともないが、微妙に違う。関連が深い作品には違いないが。
図書館を訪れた作家の「私」は、いつの間にか別世界に迷い込み、探偵天下一大五郎になっていた。そこは、「本格推理」という概念が存在しない街だった。のみならず、この街には歴史がなかった。この街には、一体どんな秘密が隠されているのか。この街の住民のルーツと伝えられている、「クリエイター」なる人物とは何者なのか?
本作は、この奇妙な街で起きる怪事件の数々を、天下一大五郎が解決していくという本格ミステリーである。しかし、実は深い意味が込められている。本作が、東野さんご自身の自叙伝的な色合いが濃いのは明白だ。また、本格ミステリーへのオマージュとも受け取れる。「私」を東野さんに置き換えてみるとよくわかる。あるいは、天下一大五郎を置き換えてもいい。
東野さんのデビュー作『放課後』は、まぎれもない本格ミステリーだった。現在でこそ、ミステリーに留まらない多彩な作風で知られているが、やはり東野さんのルーツは本格ミステリーだ。東野さんは、本作でそのことを再確認しようとしたのかもしれない。半分は洒落で書いたのかもしれないが。
深読みするも良し、単純に楽しむも良し。ただ、これだけははっきり言える。やはり東野さんは本格ミステリーが好きでたまらないのだ。いつになるのかわからないが、東野圭吾の集大成的な本格ミステリーが読める日を、楽しみに待ちたい。