東野圭吾 34


どちらかが彼女を殺した


2000/05/27

 探偵役が自らの推理を披露した後、真犯人を指摘する。それが本格ミステリーのお約束である。結末に満足するかどうかは別として、読者は最後まで読めば考えなくても真犯人を知ることができる。

 しかし、本作は真犯人の名が告げられないまま終わってしまう。容疑者はたったの二人。もちろん、作中の人物たちには真犯人がわかっている。読者は、与えられた材料から真犯人がどちらなのか推理しなければならない。

 愛知県警豊橋署に勤務する和泉康正は、最愛の妹が偽装自殺を施されて殺害されているのを発見する。彼は独自の捜査で、真犯人を探り出す決意をする。その結果、容疑者は二人に絞り込まれた。一人は、妹の親友弓場佳世子。もう一人は、かつての恋人佃潤一。しかし、復讐に燃える彼の前に、あの加賀恭一郎刑事が立ちはだかる。

 本作のメインはあくまで推理である。余分な人物は極力省き、事件自体も地味なものにした、と東野さんは述べている。本作の謎解きについては、簡単だったとの声も聞くし、さっぱりわからないとの声も聞く。僕の場合は目星をつけるに留まり、理路整然と推理をまとめることはできなかった。

 初版刊行時には読者からの問い合わせが殺到したらしく、文庫版には西上心太氏による懇切丁寧な推理の手引きが付いている。ただし、袋綴じになっているので立ち読みで済ませることはできない。また、ノベルス版で重要な鍵となっていたある箇所が文庫版では削除されており、難易度はむしろ上がっている。

 あくまで、考えるのは読者自身なのだ。僕なりにまとめた結果を謎解き編として記しておくが、一度は自分で考えてみてほしい。



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