東野圭吾 43


予知夢


2000/06/20

 『探偵ガリレオ』に続き、物理学者湯川学が再び不可解な事件の数々に挑む。それなりに面白かったのだが、前作よりパンチが弱いかな。出来が悪いという意味ではない。前作ほど物理現象を前面に出していないのが、個人的には残念だ。

 第一章「夢想(ゆめみ)る」は、17年前に見た夢に捕われた男の話。男は主張する。僕たちが結ばれることは決まっていたのだ、と。うーむ、話としては面白いが、これは完全に心理学の領域である。湯川には、心理学者としての素養も備わっているのか? こういう話の探偵役は、加賀恭一郎刑事の方が相応しいような気もする。

 第二章「霊視(みえ)る」は、湯川自身が最も嫌いそうな話だ。被害者が殺害されたのと同時刻に、霊が異変を知らせにやってきた? これも内容的にはオーソドックスな本格ミステリーである。ただし、湯川が自らの推理を確信するに至るきっかけは、ある物理現象にある。そういえば、僕のミニコンポはずっと不調だが…。

 第三章「騒霊(さわ)ぐ」は、これまた湯川が嫌いな話。今じゃ死語になった感もある、ポルターガイストらしき現象の正体は…。実は、まったく同じ現象の話をテレビで見た覚えがあったので、すぐにわかってしまった。

 第四章「絞殺(しめ)る」は…東野さんが大学時代アーチェリー部に所属していた経験が活かされている(?)とだけ言っておこう。

 本作で最も印象的なのが、表題作と思われる第五章「予知(し)る」だろう。マンションの一室で、女性が首吊り自殺を図る。ところが、その三日前、向かいのマンションに住む女の子が、その女性が首を吊るのを見たという。果たして予知夢なのか? 事件はとりあえず合理的解決を迎えるが…割り切れない謎が残される。このシリーズの中では、異彩を放つ一編だ。少女の最後の言葉が意味するものは?

 ああ、長編が読みたい…。



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