東野圭吾 44


片想い


2001/04/06

 『白夜行』以来となる待望の長編作品は、正直なところ実に評価に困る作品だ。

 帝都大学アメフト部のクォーターバックとして鳴らした西脇哲郎は、十年ぶりに女子マネージャーだった日浦美月と再会した。日浦は男性として人生を送ろうとしていた。ずっと以前から、日浦は男性の心と女性の肉体を有していたのだ…。

 性同一性障害という言葉が知られるようになったのは、つい最近のこと。心と肉体のギャップに対する苦悩を理解するのは難しい。日浦は少しでも男性の肉体に近づこうとする。決してギャップは埋まらないことを理解していても、そうせずにはいられない。

 そんな日浦が苦悩する姿の生々しい描写に、序盤は圧倒される。ところが、ほどなく事態は日浦の個人問題では済まなくなってくる。日浦を含めたある計画が、水面下で進行しつつあった。そこに違った立場で関わってくる、かつてのチームメイトたち。

 性同一性障害に代表されるジェンダー問題。そんなデリケートなテーマに、かつてのチームメイトたちの現在を絡めようとした試みは、いかにも東野さんらしい料理法だ。しかし、期待が大きすぎたせいなのか、うまく絡んでいるように思えなかったのが残念。

 いかにアメフトが団体競技とはいえ、キーマンが多すぎはしないか。エピソードを欲張りすぎてはいないか。序盤の痛々しくも胸を打つ展開が、薄れてしまっている。個々のエピソードや登場人物は、いずれも主張が強い。しかし、クォーターバックだけを集めてもチームにはならない。 

 成り行き上仕方ないのかもしれないが、どうしても目的がすり替わっているような印象を受けてしまう。仲間を思う気持ちに嘘偽りはないのだろう。しかし、西脇を動かしていたのはそれだけだろうか。その裏に、ジェンダー問題に苦しむ者たちに対する好奇心がなかったか。新聞記者の早田に対する対抗心がなかったか。

 ラストシーンをどのように解釈するかは読者次第だが、一応当初の目的を果たしたことにはなるのだろうか。問題提起にはなっているのかもしれないが、敵のマークを承知で投げた西脇のパスそのもののような、釈然としない思いが残る。



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