東野圭吾 48


ゲームの名は誘拐


2002/12/08

 どこで読んだか忘れたが、東野圭吾さんは「一部の読書好きだけが喜ぶような大長編ばかり出してはだめだ」と出版界の現状に疑問を投げかけていた。現に、数ある東野作品の中で大長編と呼べるのは『白夜行』など数作品しかない。

 もちろん、東野さんの言には作家サイドからも読者サイドからも異論があると思う。大長編でしか書けないテーマもあるし、溢れる情熱のすべてを伝えるためにはその長さが必要な場合もある。それは僕も認める。だが、読むのが遅い僕は大長編を一作読み終えると正直へとへとになる。一週間くらいは活字から離れたくなってしまう。

 『白夜行』などの意欲作はもちろん素晴らしいが、たとえ器用貧乏などと揶揄されようと、手頃な長さの密度の濃い作品こそ東野圭吾の真骨頂だと僕は思っている。そして東野さんからまた手頃な作品が届けられた。

 タイトル通りに誘拐をゲームとして扱った本作。「キザな主人公にムカついて下さい」というメッセージ入りのポップを書店で見かけたが、なるほど登場するのはすかした人物ばかり。計算高さと揺るぎない自信が鼻につく、嫌〜な人間たちの駆け引き。

 最後の最後に明らかになる真相は例によって読めなかった。転んでもただでは起きない主人公の心憎さ。どこから切ってもこれぞ東野作品という仕上がりだが、正直不満が残った。いかにもさらっと書き上げたように感じられたし、さらっと読んでしまったからである。もちろん本当にさらっと書いたはずはないし、苦心してまとめたに違いないが。

 東野作品が大好きだ。だからこその不満とご理解いただきたい。もっともっとできる。もっともっと書ける。長さはそのままに。

 読書は好きだが活字中毒という領域にまで達していない僕としては、来年も東野さんのますますの活躍を祈りたい。大長編が面白いのはある意味当然のこと。長くてつまらなかったら救いがないのだから。



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