東野圭吾 62


夜明けの街で


2007/07/05

 『失〇園』に代表される不倫小説のブームを、忌々しく思っていた。不倫に遊びも本気もない。不倫は不倫であってそれ以上でもそれ以下でもない。ましてや美しくなんかない。しかし、東野圭吾さんが書いた不倫小説ならば読むしかあるまい。

 「不倫するやつなんて馬鹿だと思っていた」と主人公の渡部は述懐する。今のところ独身の僕は、不倫するやつなんて馬鹿だと思っている。だから、渡部が職場の派遣の女性と一線を越え、みるみる不倫に溺れていく様子は滑稽でしかないし、共感もしない。

 別に僕は聖人君子でも石部金吉でもないですよ。むしろ自分にはかなり甘い。それでも、『失〇園』嫌いとしては本作の不倫描写が面白いと言ってしまうのは癪だ。しかしそこは東野圭吾、円熟の筆致につい惹き込まれそうに…いやいや、僕はミステリーの部分に期待して読み通したのだ。そうなんだったら。そういうことにしておいてください。

 渡部は友人の新谷に相談を持ちかけるが、新谷が渡部を懇々と諭す様子に苦笑する。不倫のルールを熱く語るが、そもそもルール違反なんだからルールもへったくれもないだろうに。結局は渡部のアリバイ工作に協力しているし。そこまでするか。

 渡部の不倫相手である仲西秋葉には暗い過去があった。15年前、仲西邸で起きた殺人事件が間もなく時効を迎えようとしている。来年の3月31日を過ぎたら話すというのだが…。容疑者秋葉の周辺に、執念深く事件を追っている刑事と遺族の影がちらつく。

 東野さん曰く、本作は『容疑者Xの献身』に登場した石神とは対極にある男の物語だという。石神の純愛と渡部の不倫。迷わず実行する石神と、家庭との板ばさみで決意が揺らぐ渡部。確かに対照的だ。しかし、いずれも結末がぐっと胸に迫る物語である。

 秋葉が明かした真相はまったく読めなかった。読めなくて当然である、こんなひどい話があるか。渡部は今後どんな人生を歩むのか。本編でしんみりした後、番外編「新谷君の話」で新谷が渡部を諭す理由を知り、呆れた。まったく男ってやつは。

 結論は、だらしないのはいつも男ということですな。『失〇園』だの『愛の〇〇地』だの読んでいる世の男性諸氏は、これを読んでみなさい。現在のところ、僕が認める唯一の不倫小説だ。ま、他に読んだことはないし読む予定もないんですけど。



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