東野圭吾 63


ダイイング・アイ


2007/11/29

 少々話が逸れることをご容赦願いたい。現在フジテレビ系列で放映中のドラマ『ガリレオ』第六話「夢想る」(原作では『予知夢』第一話)で、事件解決後に福山雅治演じる湯川学は次のように言う。「物理に関係ない事件はこれで最後にしてくれ」と。

 そう、「夢想る」はガリレオシリーズの短編全10編の中でも、物理に関係ない特異なエピソードだ。原作を読んだとき、話としての面白さは別として、ガリレオシリーズでなければならない必然性を感じなかった。ドラマには無理矢理(?)ある物理ネタを盛り込んでいたものの、やっぱりこれはガリレオシリーズではないという思いは拭えない。

 ここからが本題である。湯川学なら、この真相をどう説明するだろう。東野圭吾さんの最新刊『ダイイング・アイ』を読み終えて、そんなことを考えたのだった。教えてガリレオ。

 バーテンダーの雨村慎介は、ある日閉店後に襲われ入院した。意識が戻ると、慎介は記憶の一部を喪失していた。かつて、慎介は交通死亡事故を起こしていたのだという。どうしてそんな重要なことを忘れてしまったのだろう? 慎介が事故について調べ始めると、事故を知る関係者たちが怪しい動きを見せ始めた…。

 「謎」の要素もあるものの、サスペンス色が極めて濃い作品である。同時に記憶喪失ものという一面を持つ。このジャンル(そんなものがあればだが)が成功した例を個人的には知らない。微に入り細を穿ったプロローグの描写に圧倒されたものの、序盤で真相に衝撃は受けないだろうと見切っていた。あるシーンに至り、悪い予感は確信に変わった。

 本作の初出は「小説宝石」1998年2月号〜1999年1月号である。今になって単行本刊行された裏にどんな事情があったのか。正直、東野圭吾の名を冠して商品として送り出すに値するかどうかは疑問が残った。クオリティを維持するため、一定の水準に達しない作品は封印するという出版社サイドの英断も必要なのではないだろうか。

 辛辣なことを書いたが、これが大ファンの一人として偽らざる感想だ。映像化すれば印象は違ってくるかもしれない、とフォローしておく。



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