東野圭吾 66


ガリレオの苦悩


2008/10/27

 昨年のドラマ版『ガリレオ』放映に続き、映画版『容疑者Xの献身』が公開された今月、ガリレオシリーズの新刊2冊が同時刊行された。映画にタイミングを合わせたのは明白だが(本当は封切りと同時にしたかっただろう)、ファンにとっては嬉しい贈り物だ。

 原作では湯川の相手役は帝都大の同級生草薙刑事だったが、ドラマでは女性の内海薫刑事に変更されていた。彼女がドラマのオリジナルキャラではないことを、僕は知らなかった。本作『ガリレオの苦悩』に収録された「落下(おち)る」が、原作での初登場作品である。ドラマの先入観のためか、頭に浮かぶのは柴咲コウさんの姿ばかり。

 「落下る」は、『容疑者X』の事件以降、警察への捜査協力をやめた湯川が、薫によって再び引っ張り出されるエピソードである。あっさり復帰するなあと思わないでもないが、薫の熱心な実験が湯川を動かした。謎解きに期待すると肩透かしを食らう、変則的1編。

 映画公開当日に放映されたスペシャルドラマ『ガリレオΦ』の原作に当たる「操縦(あやつ)る」。十分長編にもアレンジ可能だろう。個人的に、シリーズの醍醐味を最も感じさせてくれた1編。「メタルの魔術師」が使った驚くべき凶器も興味深いが、実験を重視する湯川の原点がここにある。湯川はただの理屈屋ではない。ピエロ的役回りも厭わない。

 ついに出た、文字通りの密室もの「密室(とじ)る」。しかし…本格として読むと反則スレスレ。そもそも依頼が不自然すぎる。湯川の揺るぎない論理が救いか。

 唯一の書き下ろし、「落下る」と同様にシリーズとしては変則的な「指標(しめ)す」。恒例と言える実験が行われない。湯川の心遣いを感じるが、やっぱり物足りない。

 ラストの「攪乱(みだ)す」は、警察と湯川に挑戦状が送りつけられるという、短編にするにはもったいない設定。兵器として実用化されているという『悪魔の手』の正体に戦慄する。しかし長編にするにはあまりに情けない真犯人。自分を大物だと信じて疑わない勘違い君は、どこにでもいるものだ。これから読む長編には、強敵が出てくることを願う。

 『ガリレオの苦悩』というタイトルの割には、さほど苦悩していないような…。



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