東野圭吾 67


パラドックス13


2009/04/19

 日本時間3月13日13時13分13秒。そこからの13秒間、地球は"P-13現象"に襲われるという。何が起こるか、論理数学的に予測不可能。ほとんどの人間には何事もなく過ぎ去った一方、わずか13秒間が運命を分け、過酷な世界に投げ出された13人。

 今や大ベストセラー作家の東野圭吾さんの新刊が到着した。今回、練達の筆致で挑んだテーマは何とSFだ。過去にSF的テイストを持つ作品の例がないわけではないが、ここまで本格的なSF作品は初めてではないか。近年作風が安定している中、敢えて大きな賭けに出たと言える。期待半分、心配半分に手に取った。

 わずか13人を残し、東京から忽然と人間が消えた。運転手を失った車が暴走し、街のあちこちに残骸が放置されている。最初はライフラインも生きていたが、ほどなく電気も水道も供給が止まり、頼みの綱のレトルト食品も底をつこうとしている。

 7割近く読み進んだところで、"P-13現象"とは何かがようやく明かされる。そこに至るまではオーソドックスな災害パニックものと言える。人間が消えただけでなく、大雨が、大地震が次々と襲い、東京の道という道が塞がれ、ちょっとした移動すら困難になる。常識だの倫理だのが意味を持たない極限状態で、生き残った13人の思惑が絡み合う。

 13人もの人間を描き分ける手腕と、緊迫感溢れる演出の数々に今回も唸らされたのだが、"P-13現象"という設定がなければ正直オリジナリティを感じなかっただろう。ついに明かされた真実に、さらに唸らされたのだった。タイトルの意味はそういうことか。

 SFファンではない僕から見ても、突っ込みどころはある。特に「基準」の部分で。それでも着想は素晴らしい。あまりに風呂敷を広げすぎた鈴木光司さんの『エッジ』より、こちらの方がSFとしてもエンターテイメントとしてもはるかに傑作だろう。

 真相を知らされた後、人間模様はさらに渾沌としてくる。ある者は責任を擦り付け合い、ある者は欲望に走ろうとする。リーダー格の人物の提案が火に油を注いだ。そりゃどうだろうと僕も思うぞ。現代版『日本沈没』のような乗りで、いよいよ結末へ…。

 なるほど、ちゃんと辻褄が合っている。最後までさすがだ、東野圭吾。



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