鈴木光司 22 | ||
エッジ |
小説の新刊としては『アイズ』以来3年7ヵ月ぶり、長編としては『神々のプロムナード』以来実に5年8ヵ月ぶり。作家を名乗るにはあまりにも新刊が出ないことに、大きな不満を抱いていた。一読者として、期待したい気持ちはまだかすかに残っているのだから。
『神々のプロムナード』は、現実の範囲内で展開した結果、不完全燃焼に終わった感があった。数年前から予告されていた本作は、ちまちました現実をはるかに凌駕し、何ともスケールの大きな物語である。ご本人曰く、この10年間は、世界を旅し、海に乗りだし、ひたすら最先端の科学書を読みふけることに費やされたという。
超野心的ホラー小説最終形! と帯に書かれているが、敢えてジャンル分けするならSFだろう。下巻の帯とカバー折り返しに、アメリカの映画監督・脚本家、M・ナイト・シャマランの賛辞が載っているが、なるほどアメリカ人には受けそうな設定ではある。
18年前に父が失踪した冴子は、日本全国で続発した失踪事件を調査していた。しかし、事態は単なる失踪事件では済まなくなってくる。それは世界的異変の兆候だった。
うーむ、映画の原作としてはいいかもしれないが(もう企画が動いているか?)、小説として読むと…。意気込みだけは買うが、「世界の仕組みについていくつかのヒントを提示できたのではないかと自負している」というのは豪語しすぎだ。実際にこういう概念が提唱されているにしても、ここまで膨らませるとトンデモと紙一重というのが正直な感想である。
上巻を読み終えた時点である程度覚悟はした。下巻に入り、磯貝という物理学者が登場する辺りから、急展開し始める。その用語は僕の専門分野でも使われるんですけど。πの値にある桁から0が並び出すとか、リーマン予想に反例が発見されたとか、現代数学に喧嘩を売る設定がどんなに深刻なのか、大多数の一般読者には伝わりにくい。
冴子の父親の失踪の謎は、一応明かされるのだが…。なるほど、その部分だけはホラーかもしれない。最後に、作中に登場する霊媒師鳥居繁子の言葉を引用しよう。
「わたしの手には負えんわ」