東野圭吾 69


カッコウの卵は誰のもの


2010/01/24

 かつては何かと比較された、東野圭吾さんと真保裕一さん。先にブレイクしたのは真保さんだったが、今では完全に立場が逆転した。近年の真保作品は商業面では苦戦が続いている。どの作品にも、本人の強い思い入れは感じるのだが…。

 意地悪く言えば、東野作品の方が一般受けはしやすい。一方、真保作品の方が書きたいことを書いているが、意欲が空回りしている印象を受ける。なぜこんな話をしたかというと、本作にはまさに、意欲が空回りしている印象を受けたからである。

 アルペンスキーのオリンピック代表だった緋田宏昌。娘の風美もスキーヤーとして頭角を現しつつあった。風美の才能に着目した研究者の柚木は、2人の遺伝子パターンを調べたがっていた。しかし、宏昌は承諾するわけにはいかなかった。

 ところが、風美の所属企業に届いた脅迫状が事態を一変させる。さらに、風美の合宿先のホテルで起きた事故…。脅迫者は誰か。また脅迫者の意図とは。そして19年前の真相とは。様々な思いが交錯し、ノンストップの展開を見せる。

 主なキーマンは宏昌であり、柚木なのだろうが、他にもキーマンは多い。多すぎると言っていい。読み進むほどキーマンが増えていくので、誰にも感情移入できなかった。唯一、風美だけは気の毒に思った。彼女自身は与り知らぬことなのだから。

 事件の構図が複雑に入り組んでいるだけに、突っ込みどころも多い。1つだけ挙げよう。もう1人の才能ある若者、鳥越伸吾。彼がどう絡んでくるのか考えながら読んでいたのだが、これでは唐突だし強引だ。何より、彼が浮かばれない。

 しかし、本作の最大の問題点は、テーマがアルペンスキーである必然性が弱いことではないか。スキーをテーマにした作品としては、『鳥人計画』の方が深みがあったし、訴えるものがあった。アスリート父娘の物語ならば、他の競技でも成立する。

 日本におけるアマチュア競技について、本質を突いている点には触れておきたい。



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