東野圭吾 75


マスカレード・ホテル


2011/09/12

 今や日本で一、二を争うベストセラー作家であり、日本推理作家協会理事長でもある東野圭吾さん。常に質は水準以上であるものの、近年はやや安定傾向である点が気になっていた。立場上、冒険はしにくいのかもしれないが、もっとできると思ってしまう。そんな中で届けられた新刊。『新参者』以来、久々に野心的な作品を読んだ気がする。

 東京の超一流ホテルが、警視庁から捜査協力を依頼される。従業員に扮した捜査員をホテルに潜入させるに当たり、教育係に抜擢されたのは宿泊部の山岸尚美。早速、フロントクラーク役の新田刑事と顔を合わせるのだが…。

 髪型、服装、姿勢、言葉使いに至るまで尚美に叩き直される新田。一流ホテルの一員という誇りが強い尚美にとっては、捜査云々よりお客様にいかに不快感を与えないかが重要なのだ。明らかに乗り気ではない新田は、ぼやいてばかり。

 まず、新田と尚美のコンビがとても魅力的だ。新田の人物像はいかにも生真面目な加賀恭一郎とは対照的だが、刑事としての勘は優れている。また、一匹狼タイプの加賀恭一郎に対し、新田にはパートナーの意見も取り入れる柔軟性がある。

 本作は、『新参者』と同様にオムニバス的な構成も持つ。怪しげな客が現れる度に、行動を探る新田と尚美。ときには失敗もする。そんなことを繰り返すうちに、新田もホテルマンぶりが板についてくるのが面白い。やがて捜査は大きく動き出し、新田も尚美も、自らの首をかけて「Xデー」を迎えることになった。ついに姿を見せた真犯人とは…。

 うーむ、新田にも見抜けなかったのかとちょっと思ってしまったが、見事に騙された。東野さんのある作品を思い出すが、タイトルは言えません。一件無関係な3つの殺人と、予告された第4の殺人との関係。まさかこんな形で跳ね返ってくるとは。なお、新田と尚美以外に忘れてはならない立役者がもう1人いるのだが、ここでは触れずにおこう。

 色々な点で『新参者』と好対照な作品だが、どちらも甲乙つけがたく面白い。東野さん自ら手ごたえを口にしているのは決して誇張ではない。それにしても、どんな客にも文句一つ言わないホテルのスタッフは偉いと思う。僕に接客業は無理だ。



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