東野圭吾 79

禁断の魔術

ガリレオ8

2012/10/19

 早くも刊行されたガリレオシリーズ第8作。前作『虚像の道化師』は雑誌連載をまとめたものだったが、本作は短編集としては異例の全編書き下ろしである。

 トリック重視の作品が並び、原点回帰したような印象を受ける。僕は前作の感想にそう書いた。本作においてもトリックは重視されているが、同時にドラマ性も重視し、『容疑者Xの献身』のように人間の内面に踏み込んでもいる。

 「第1章 透視す みとおす」。草薙と一緒に入った銀座の店で、ある若いホステスが湯川に特技を披露した。その後、そのホステスは殺害された…。

 「第2章 曲球る まがる」。現役続行を模索するベテラン投手に、湯川が協力することになった。そんな中、彼の妻がスポーツクラブの駐車場で遺体となって発見された…。

 「第3章 念派る おくる」。双子の姉妹の妹が、姉に連絡を取るよう頼んできた。胸騒ぎがするという。姉は自宅で、頭から血を流して倒れていた…。

 これら3編の特徴は、事件そのものの解決に湯川は関与していない点である(第3章はちょっと策を講じたが…)。一方で、関係者の心をケアしているのが実に心憎い。特に、第1章と第2章は、死後に初めて真意を知るのだった。遅きに失したとは言うまい。

 そして、本作の約半分を占める「第4章 猛射つ うつ」。かつて実験指導した高校生が、帝都大に入学したことを喜ぶ湯川。しかし、彼の姉が死亡し、入学からわずか1ヵ月で退学。連続器物損壊とフリーライターの殺害に、彼はどう関係しているのか?

 彼の標的は、警察が尻込みする相手。この技術は米軍による実験も行われており、絵空事ではない。科学は常に兵器への転用と隣り合わせ。第4章は、湯川が揺れ動くという点で『容疑者Xの献身』と似ている。長編化も可能だっただろう。

 凡人に見えないものが見えるというのも、悩ましいね。



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