東野圭吾 80


夢幻花


2013/04/24

 黄色い朝顔にまつわる物語の情報を知ったのは2005年。エッセイ集『さいえんす?』の中で触れられていた。実はこの時点で連載は終わっていたが、一向に刊行されない。ボツになったらしい噂も聞いたが、全面的に書き直してついに完成した。

 蒲生蒼太の一家は、毎年七夕の頃、朝顔市に出かけるのが習慣だった。中学時代、そこで出会った伊庭孝美と、密かにデートを重ねていた蒼太。ところが、メールを見た父に咎められ、孝美からももう会わないと一方的に告げられた…。

 そして現在。家族との折り合いが悪い蒼太はわざわざ大阪の大学に進学し、大学院生になっていた。父の三回忌のため帰省すると、兄の要介は仕事があると出かけてしまった。法事が済み、先に家に戻ると、秋山梨乃が訪ねてきたところだった。梨乃は、従兄の尚人を自殺で、祖父の周治を強盗殺人で、立て続けに亡くしていた…。

 と、このくらいにしておこう。序盤から謎の嵐である。黄色い朝顔が鍵を握っているらしいのだが、周治の自宅から消えていた。警察は何かを隠している。蒼太と梨乃はタッグを組んで調査に乗り出すが…主要人物だけでもかなりの人数である。どんどん謎が拡散していって、正直読み進むほど幕引きが心配になってきたのを告白しよう。

 結論を言うと、実に完璧なフィニッシュ。その瞬間、すべての謎が一点に収束していった。これほど鮮やかな収束にはなかなかお目にかかれない。作家東野圭吾の底力を見せつけられた。無駄な謎もなければ、無駄な人物も1人もいなかったのだ。

 謎の発端は江戸時代にまでさかのぼる。そもそも初出誌が「歴史街道」なのである。東野さんご本人によれば、連載は何とか終えたがとても単行本にできる代物ではなかったという。結局、「黄色い朝顔」というキーワード以外はまったくの別物になったが、結果的にこれほどの作品になったのだから、連載時の苦労が報われたと言っていい。

 ようやく家族とのわだかまりが氷解し、茨の道を歩む決意をした蒼太。時事の問題を取り入れて、きれいにまとめるのはさすが。そして、挫折を味わった梨乃もまた、一歩踏み出す決意をした。現時点で今年のNo.1ミステリーだ。



東野圭吾著作リストに戻る