東野圭吾 82


疾風ロンド


2013/12/31

 『白銀ジャック』に続くゲレンデ・ミステリー第2弾は、またもや文庫書き下ろしで刊行された。実業之日本社文庫の創刊ラインナップとして刊行された『白銀ジャック』は、同社の発表によると1ヵ月で100万部を突破。そこそこに面白い作品ではあったが…。

 『白銀ジャック』で初めて東野作品を読んだ人の手厳しい声を聞いた。その人はその1冊で東野圭吾という作家を見切ったらしい。実際、文庫だから手に取ったという読者はいただろう。そして、東野圭吾ってこんなもんかと思った読者もいたかもしれない。

 本作を求めて書店に行くと、東野圭吾さんの手書きポップがあった。こんなに面白くなるとは! 自分でも驚き…と、自信満々だが、結論から言うと、今回もそこそこに面白いが、前作の方が面白かった。これで東野圭吾を見切る読者がまた出てくるのか…。

 大学の研究所を解雇された男が、強力な生物兵器を盗み出し、雪山に埋めた。雪が解け、気温が上昇すると、病原菌がばら撒かれてしまう。ところが、元の職場を脅迫した男は事故死してしまった。どこかのスキー場という以外、場所は不明…。

 前作が爆弾で、今回は生物兵器。シチュエーションは酷似しているが、緊急性があった前作に対し、本作は少なくともスキー場の営業期間中は安全なわけで、営業期間終了後にゆっくり探せばいいのにと思わなくもない。それじゃ作品が成立しないけれども。

 上司に命じられ、息子を伴い、とあるスキー場に回収にやって来た研究員。しかし、目印はテディベアだけで、場所は滑走禁止エリア。彼のスキーの腕ではあまりに荷が重い。結局、苦しい言い訳でスキー場のスタッフに泣きつく。

 直接は関係ない地元中学生の事情がうまく絡んでいない気がするが、間一髪の演出や、最後のどんでん返しは評価してもいいだろう。まさか中身が…。大活躍の息子君には元気を出してほしい。なお、これが初めての東野作品だという方へ。これで見切らず、是非他の作品も読んでいただきたい。東野圭吾はこんなものじゃないのです。



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