東野圭吾 71 | ||
白銀ジャック |
東野圭吾さんの小説の新刊が文庫で出るのは、『おれは非情勤』以来。本作は、実業之日本社文庫の創刊ラインナップの目玉として刊行された。
年の瀬の新月高原スキー場に脅迫状が届く。ゲレンデに爆弾を仕掛け、身代金を支払わなければ爆破するという。現場の進言に耳を貸さず、利益優先で営業を続行させる上層部。もはや警察には頼れない。あまりにも鮮やかに身代金を奪取する犯人。動機は単に金なのか、それとも…。1年前の悲惨な事故現場に、鍵があるのか。
人質は事情を知らないスキー場の客全員。一部の関係者を除き緘口令が敷かれ、極秘に犯人とのやり取りをすることになる。冗談かもしれないが確信は持てない。爆弾が埋まっているかもしれないゲレンデの圧雪作業など、できればしたくはない。
今年1月にもスキーをテーマにした『カッコウの卵は誰のもの』が刊行されたが、あれこれ盛り込みすぎてスキーというテーマがぼやけてしまった印象を受けた。一方の本作は、構造は至ってシンプル。直滑降の如きスピード感溢れるサスペンスである。
スキーやスノーボードの人気低下が背景にある。リーマンショックより前から、各地のスキー場は苦境に陥っていた。寂れる一方の周辺自治体。僕自身、最後にスキーに行ったのがいつか思い出せない。それでも来てくれる客は大切にしなければならない。だが、営業続行が客への誠意なのだろうか? 現場は煩悶するが、もう引き返せない。
スキー場の関係者以外にも、偶然聞きつけた一般客や、1年前の事故の関係者が絡み、事態は混沌としてくる。雪上の追跡行では、007シリーズも顔負けのアクションが繰り広げられる。映像化すれば迫力満点だろう。予定がもうあったりして?
命知らずな彼や彼女にも呆れたが、真相にはそれ以上に呆れた。まあ、着地はきれいに決まったかな。大傑作とまでは言えず、結末といい予定調和っぽいのは否めないが、十分に満足した。本作と同じ実業之日本社から、スノーボードに関するエッセイ集『ちゃれんじ?』も出した東野さんだけに、本作は全国のスキー場への応援歌かもしれない。