平山夢明 04 | ||
ミサイルマン |
昨年『独白するユニバーサル横メルカトル』で『このミス』第1位、『文春ベスト10』第7位と話題をさらった平山夢明さんの、「読者を選ぶ」作品集第2弾が到着した。
ご自身のブログ(2007年6月17日参照)によると、初版は少なめだそうである。「拾った宝くじが大当たり! みたいな現象が二度起きるはずない」とかなり謙遜している。とはいえ、光文社に二匹目のどじょうを狙う気がまったくないことはあるまい。
前作の個人的一押し「オペラントの肖像」と同様に、戦慄の近未来を描く「テロルの創世」。絵空事と笑い流すには、現実はあまりにも切迫している。長編で読んでみたい。愛を巡り争う男の悲哀「Necksucker Blues」。せっせとブランド品を貢いだバブル時代の男たちを彷彿とさせる。岩手県人としてはオチが最高。
愛する人のためなら「けだもの」にもなる。それは呪われた血、されども気高き血。封印よいざ解かれん。哀しくも美しい血と愛の物語。これまた長編で読んでみたい逸品。「枷(コード)」は二度と外せない。彼のコレクションは容易には増えない。だからこそ「枷」から逃れられない。この芝居、観たいような観たくないような。
続いて道具立てが対照的な2編。「それでもおまえは俺のハニー」と言い切れるか。脅されても罵られても決して電話線を断てない理由。男は女の立場になることを選んだ。男気溢れる1編。作中唯一の正統的ホラー「或る彼岸の接近」。正統的だけに目新しさはないが、時代を意識したアレンジと「実録怪談の雄」らしい語り口が光る。
最後を飾る表題作「ミサイルマン」。"↑THE HIGH-LOWS↓"というバンド名は聞いたことがあるが、彼らのデビュー曲「ミサイルマン」は知らない。少なくとも引用されている部分は意味不明だ。この作品のように。一言で述べれば生理的嫌悪感を催す描写のオンパレードなのだが、舞城王太郎のように不思議と突き抜けた1編。嫌いじゃない。
前作同様、グロがだめな方には一切お薦めしないが、前作とは違い本作品集には共通のテーマを感じる。それは「愛」だ。歪んだ愛ばかりではあるが。小説家として評価された後も、実録怪談というライフワークへの愛を捨てない平山夢明さんは偉いと思う。