五十嵐貴久 16


土井徹先生の診療事件簿


2011/10/12

 久々に読んでみた五十嵐貴久作品。連作短編集で手を出しやすかったというのも選んだ理由の1つだが、探偵役が獣医である点に興味を持った。

 殉職警官を父に持つ令子は、気がつけば警察官僚になり、24歳にして南武蔵野署の副署長に就任する。しかし、毎日が暇。同年代の婦警と気軽に話すこともできず、話し相手がいない日々。そんな令子に、なぜか動物絡みの事件が舞い込んでくる。謎を解くのはダンディーで「動物と話せる」という獣医の土井徹先生。

 「老人と犬」。自分は殺されると訴える警察OBの老人。自宅を訪ねてみれば…。詳しくは書けないが、土井先生にとって最も許しがたい事件だろう。「奇妙な痕跡」。佐久間署長にロリコンの気があるという噂は令子も知っていた。怪しい電話を聞いたり、デスクを荒らされたり…噂はやっぱり? うーむ、価値観は人それぞれとはいえ…。

 「かえるのうたが、きこえてくるよ」。殺人事件の容疑者がスピード逮捕されるも、無実を訴えるのだが…。そこに土井先生がいなければ、被害者がマニアでなければ、彼は犯人になっていた。「笑う猫」。88匹の猫を飼っている老女。近所の苦情に警察としても苦慮しているが、その裏に隠された事情とは…。本作中ではやや変則的で、切ない1編。

 「おそるべき子供たち」。息子が万引きをしているらしいと相談してきた婦人。しかも、エロ雑誌ばかり。どこに動物が関係するのだと思ったら…。「トゥルーカラー」。令子の唯一の話し相手、警察犬の訓練士をしている竹内冬子によると、犬舎で奇妙な事件が起きているという。自らの先入観を戒める令子。読者に問題提起する1編。

 動物の習性から推理を展開するのは面白い趣向だし、十分楽しめたが、印象が地味で損をしているような感がある。一部ネタがマニアックすぎたり、飛躍しすぎていたり、惜しい点もあるかな。令子が警察署の副署長であるという設定は必須なのだろうか? せっかくいい素材が揃っているのだから、これで完結させるのはもったいない。

 動物をテーマにしたミステリーとしては、柳広司さんの『シートン(探偵)動物記』と読み比べると面白いだろう。



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