井上夢人 02


あくむ


2000/08/28

 漢字で「悪夢」と表記しないところが何となく井上さんらしい。ありがちなタイトルでも、平仮名や片仮名で表記すると印象が変わるものである。本作は、夢と現実の区別がつかなくなった人間たちを描く、文字通りのホラーテイストの短編集だ。以下、各編に簡単に触れておこう。

 盗聴をテーマにした、「ホワイトノイズ」。最近では、誰でもお手軽に盗聴グッズが手に入る。ふとしたきっかけで、盗聴にはまってしまったある男。彼が陥った悪夢とは? 正直に言って、僕も他人の話につい耳をそばだてることはあるけどね。

 芸術家を襲った悲劇を描く、「ブラックライト」。現実を直視できない芸術家が生み出した妄想とは? 僕は芸術には疎いが、同じ事態に襲われたらそれこそ世界が暗転するに違いない。もっと光を…。

 本作の一押し、「ブルーブラッド」。男は幼いころ、自分は他人とは違う「種」であることを知った。そして、彼の両親も。彼は、禁断の欲求を夢の中で満たしていたはずだったのだが…。一体彼はどんな「種」だというのか? それは読んでみてほしい。怖さの中にもブラックユーモアが効いた好編だ。

 嫌〜な後味が残る、「ゴールデンケージ」。同じ家で暮らしながら、まったく待遇が違う賢介、優介兄弟。とにかく二人が気の毒でならない。そして、とにかく彼らの両親は愚か者だ。ありそうな設定だけに、ブルーな気分に浸れること間違いなし。生理的に受け付けない人が多いかも。ああ、ぞわぞわする…。

 色に因んだタイトルの作品が続いたが、最後を締めるのは「インビジブル ドリーム」。うーん、この結末はよくわからない。タイトル通り、意味が「見えない」。

 作風としては、綾辻行人さんの『フリークス』に近い。しかし、『フリークス』よりはインパクトに欠けるか。うまいとは思うんだけど。



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