井上夢人 09


オルファクトグラム


2002/01/07

 タイトルに冠された耳慣れない言葉の、英語のスペルは"olfactogram"である。意味は…嗅覚の図??? まあとにかく、他に例を見ない嗅覚のミステリーだ。

 姉の家で殺人鬼に頭部を強打され、一ヵ月の間意識不明だった片桐稔。稔が目覚めると、世界は一変していた。彼は犬以上の高度な嗅覚を獲得していたのだ。卓越した嗅覚を武器に、彼は行方不明の友人を、姉を殺した憎き相手を追う。

 人間の五感である視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の中で、嗅覚は最も研究が遅れている分野だそうである。同時に、最も他人に伝えることが困難な感覚でもある。

 そんな嗅覚を、井上夢人さんはいかにして文章化するというのだ? おお、こういう手があったのか! これならWOWOWでの映像化の企画が持ち上がったのも納得である。本作は、嗅覚という難しい素材を扱いながら映像化に打ってつけの作品なのだ。やるぜ小説界のアイアン・シェフ! 井上シェフの匠の技をとくと味わうがいい。

 相手が触ったものや食事のメニューを当てるなんてことはほんの序の口。指紋を拭いても匂いまでは消せない。前代未聞の嗅覚探偵、稔の鼻から逃れることは不可能。無臭グッズが流行りの昨今に、こんな匂い立つ一作を読むのも一興だろう。

 殺人鬼に捕われた恋人のマミを救い出すクライマックスの緊迫感は見事。なぜ自分が追い詰められるのかわからない殺人鬼。まさか相手が並外れた嗅覚の持ち主とは思わないよなあ。それにしても、タイミング良く〇がいたもんである。

 『クリスマスの4人』を読んだ後だけに、大満足だ。それでは発表します…チャンチャンチャンチャン…鉄人、井上夢人! てなもんである。つくづく、WOWOWが見られないのが残念でならない。作中の官能的描写を、映像ではどう処理するのだろう? ただし、なぜ殺人鬼が〇を〇いていたのかを突っ込んでほしかったなあ。

 最後にどうでもいいテレビネタ。『料理の鉄人』の主宰は本木雅弘じゃだめだろう。



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