井上夢人 10 | ||
クリスマスの4人 |
『オルファクトグラム』以来の、井上夢人さんの新作長編である。
本作は年一回というペースで足掛け4年にわたり連載された。ビートルズが解散した1970年のクリスマスの夜。ある秘密を共有してしまった4人の男女。そして1980年、1990年、2000年。彼らは10年に一回クリスマスに集まり、その度に1970年の忌わしき記憶が掘り返されるのだった。ミレニアム・イヤーに遂に明らかになる真相とは…。
10年に一度のクリスマスという設定。さりげなく織り込まれる各時代の世情。4人が交替で語り部を務めていく。実に井上さんらしい形式美、これは興味をそそられずにはいられないではないか。だがしか〜し…がっかり。
正直なところ、読んでいる間の僕の中の盛り上がりはいまいちだった。わざとらしい演出。特に1990年はおいおいと思った。結末に対する大きな期待のみが、読み進めるエネルギーとなった。終わり良ければすべて良しだ。さあ、いよいよ2000年。
ところがどっこい、井上夢人ともあろうお方が何ですかこの結末は…。4年かけた連載の成果がこれかよ! 連載時からリアルタイムで読んでいた方の脱力ぶりは、僕の比ではあるまい。せっかくの毒々しい色使いの不気味な装丁が、泣いているぞ。どうしたんだ、綺想のマエストロ(帯より)、井上夢人…。
オチがよく似た作品を、今年読んでいたことを思い出す。作品名はとても挙げられないが(わかる人にはわかるかな)、その某作品の方がはるかに許せるよなあ。いっそのこと2000年は冗談ということにして、2010年を書きませんか?
迎えてみればどうってこともなかった2000年。現実が小説をあざ笑った2001年。ワールドカップ・イヤーの2002年は、はてさてどんな年になるのだろう。『オルファクトグラム』を読みながら、2002年を迎えるとするか。