井上夢人 11


the TEAM


2006/01/30

 かの京極堂こと中禅寺秋彦曰く、「霊能者に必要なのは情報を摂取する特殊な能力と効果的な情報公開の方法論なのだ、それによって救われる人間がいる限りはそれはそれで良いのだ、心霊術とはそういうものなんだ」そうである(『魍魎の匣』参照)。

 テレビで人気の盲目の霊能者、能城(のしろ)あや子。彼女の霊視は、社会的事件や不思議な事象の真実を次々と明らかにしていくが…実はでっちあげ。その背後には、相談者の情報収集を担う強力なスタッフが存在する。霊能者の役割は、効果的に情報を公開するだけ。京極堂によれば、これは心霊術のあるべき姿ということになるが…。

 ただし、情報収集の手段が問題である。調査対象を尾行し、自宅にも侵入する草壁。ネットはもちろん、サーバへも侵入する悠美。それぞれ不法侵入のスペシャリストである。手段そのものが違法なわけで、「そういうものなんだ」とは言えないだろこれは。

 当然、カラクリを暴いてやると息巻く連中もいるわけで、最初からいきなりそうした熱血漢との対決となる。ところが、最強チームは決定的証拠は掴ませない。能城あや子に感謝こそすれ、誰一人被害者として名乗りを上げないのである。

 しかしねえ…手際が鮮やかすぎるのも考えもので、エンターテイメントとしてのわくわくどきどき感がないんだよなあ。毎回危ない橋を渡っているはずなのに。自身は傀儡に過ぎない能城あや子の霊視シーンも、京極堂の憑き物落としのように盛り上がらない。

 各編はそれぞれ完結していると同時に、一つの物語として連続性を持ち、能城あや子の過去が明かされたりもする。ラストが近づくと、彼らチームのやり方には重大な落とし穴があったことを突き付けられるのだが…結局盛り上がらないまま終わっちゃったよ!

 4年ぶりの新刊で、しかも井上夢人の作品としてはひねりが足らず、ちょっと寂しい出来かな。なお、未来のことをはっきりと言う霊能者は三流だそうなので、身に覚えのある霊能者の皆様はお気をつけあそばせ。チーム能城が一流なのはわかった。



井上夢人著作リストに戻る