伊坂幸太郎 01


オーデュボンの祈り


2005/05/13

 いやあ、シュールだねえ。

 と読み終えて思ったら、文庫版解説の出だしもまったく同じで何だか居心地の悪さを感じてしまった…。「シュール」とはフランス語の「シュールレアリスム」の略であることは知っていたが、はっきり言って意味もわからずに使いがちな言葉である。それでも、この作品を形容するに相応しい言葉は「シュール」しかないと思った。

 コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。そこは宮城県牡鹿半島の沖に浮かぶ、外界から遮断されている荻島≠セった。支倉常長によってヨーロッパとの交流所とされたこの島は、日本の開国時に逆に鎖国…もとい「鎖島」したのだという。居住する仙台をよく舞台にする伊坂さんだが、地元の実在の人物を使うとは。

 舞台だけでも十分にシュールだが、登場人物たちが皆シュール。ここには書かないので読んでみてくださいな。とどめは言葉を話すカカシの「優午」。ところが、未来を見通せるというこのカカシが殺される。どうして優午は自分の死を阻止できなかったのだ?

 設定だけなら単に奇をてらっているように感じられる。実際何じゃこりゃと思いながら読んでいたが、この不条理な作品世界にも関わらず、すべてが合理的に説明されてしまう。奇妙な人物たちの奇妙な行動、奇妙な言動にはすべて意味があったんだ! 途端に、島の住人たちが愛おしく思えてきた。もちろん、カカシの死には深い意味が込められていたのだ。

 『重力ピエロ』を読んだ担当編集者は、「なんだ、小説まだまだいけるじゃん!」と思わず叫び、そのまま帯の文句にもなったという。その言葉がより相応しいのは本作ではないか。伊坂作品を支えるエスプリが効いた台詞回しは、デビュー作から完成されていた。

 これほど個性的で、なおかつ完成度が高い作品でデビューすると、その後泣かず飛ばずになってしまっても無理はない。しかし、伊坂さんは順調にハイクオリティな作品を送り出している。それが凄いことだと思う。いや、もちろん毎回頭を悩ませているだろうけど。

 薄々予想できたある男の末路に、心の中で快哉を叫んだのは僕だけじゃないはず。



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