伊坂幸太郎 03


陽気なギャングが地球を回す


2004/04/12

 キャラクターが個性的で、文章がウィットや洒落に富んでいればそれでいいのかよ。

 と、読み始めた時点では思っていた。正直ごまかされている気がしたからである。だが、最終的にはその認識が大きな誤りであることに気付かされることになる。

 最初に読んだ伊坂幸太郎さんの作品『重力ピエロ』は、いい作品だったが巷で言われているほどの傑作とは思わなかった。しかし、同時にこの作家には確実に光るものがあると感じた。新しい作家と出会う際に、この点が他の作品も読むかどうかの分れ目になる。

 一言で述べると、本作は四人組の銀行強盗が活躍(?)するクライムノベルである。重要なのは、犯罪者を主人公に据えながら明るいこと。タイトル通り、彼らは「陽気なギャング」なのだ。冷酷非道ではいけない。金のためなら何でもありではいけない。麻薬を扱うなどもってのほか。本作はピカレスク小説ではないのだから。

 用意周到なはずな彼らの仕事に誤算が生じてしまう。稼ぎは奪われ、トラブルが続出する。相手は絵に描いたように冷酷な男。ところが対照的な敵に対し、あくまで清く正しく明るく立ち向かうのだ。悲壮な覚悟など彼らには似合わない。

 この結末の快感。なるほど、すべてはこのための布石だったのかと一瞬で理解できる。構成は緻密そのものだが、複雑すぎないことがポイント。理解に時間を要するようでは、こんなに心地良い読後感は得られない。エンターテイメントはこうでなくては。

 あとがきを読んで納得したのだが、本作が目指したものはハリウッド的な純粋な楽しさである。言い換えれば、繰り返し読み込むような作品ではない。アクション映画を何度も観ることはないように。追求したのは、その場限りの楽しみ。実に潔い姿勢ではないか。もちろん、面白かったから言えることだが。

 個人的には『重力ピエロ』よりこちらが好きだ。



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