伊坂幸太郎 08


死神の精度


2005/07/04

 毎回趣向を凝らす伊坂作品、今回の主人公は死神ときたか。

 彼ら「死神」の役目は、指定された「人間」の死を見定めること。担当する人間に接触し、一週間にわたり死ぬべきか否かを調査する。「可」と報告すればその人間は死ぬ。よほどのことがない限り「可」となる。ろくに調査もせず「可」と報告する者も多いという。

 という設定からある漫画を思い出した。月刊少年ジャンプで連載されていた、えんどコイチ著、その名もずばり『死神くん』。主人公は相手に死を宣告し、魂を霊界に運ぶ役割を担うのだが、この世に思い残すことがないよう骨を折る。戦争などの社会的テーマを積極的に扱い、当時とても考えさせられた作品である。

 人間界では「千葉」と名乗る本作の主人公は、別に成仏を祈ったりはしない。あくまで淡々と処理するのだが、妙に生真面目なところに『死神くん』に通じるものを感じる。担当する人間との面会を繰り返し、調査は怠らない。たとえ結局「可」にするとしても。もっとも、彼自身の人間への好奇心は大きいのだろう、時々とんちんかんな質問をしたりもする。

 あまりにも意外な展開に心が和む、第57回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した表題作。今どき珍しい任侠を重んじるヤクザが登場する「死神と藤田」のずるい終わり方。「恋愛で死神」は…違う結末にはできなかったのかよう。殺人犯と逃避行を繰り広げる「旅路を死神」にじーんとする。おせっかいな死神もいたもんだ。

 でも、一押しは「吹雪に死神」かな。吹雪の洋館に集まった人々が次々と…というお約束的設定なのだが、この真相はどうだ。主人公が死神だから成り立つとだけ言っておこう。本格のルールは逸脱していない。山口雅也さんの『生ける屍の死』のように。

 ラストを飾る「死神対老女」。こりゃ凝りすぎじゃないの? それまでの話がこんな風に絡んでくるか。何とも伊坂さんらしい趣向だねえ。このシリーズはこれで完結なのだろうか。ミュージックを愛する、どこか憎めない死神にはもう会えないのか。

 感動するかといえばちょっと違うが、じめじめした季節にからっとした作品はいかが?



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