山口雅也 01 | ||
生ける屍の死 |
デビュー作にして、いきなり山口さんはひねりを効かせてきた。読者の好みが大きく分かれる作品だと思うが、僕は文句なしに傑作だと思っている。
ニューイングランドの片田舎に位置するスマイル霊園で、死者が相次いで甦るという怪現象が起こる。そんな中で、霊園の経営者であるスマイリー・バーリイコーンの一族に、殺人者の影が忍び寄る。死者が生き返るという特異な状況下で、一連の殺人劇には何の必然性があるのか?
「死者が甦る」という設定に、まず面食らう読者も多いだろう。このような設定自体は、ホラーだったら特に珍しくはない。しかし、本格ミステリーの設定としては画期的、と言うより諸刃の剣である。生半可な内容では読者を納得させることはできない。本作は、この難題に挑んで見事にクリアしている。
三分の一程度進んだところで、何と主人公であるグリンは死んでしまう。甦ったグリンは、自分が死に至った原因を探ることになる。ただし、甦ったとは言っても彼が「死者」である事実に変わりはない。肉体は刻一刻と朽ちていく。完全に朽ちてしまう前に、彼は真相に至ることができるのか?
特異な設定における殺人動機は、やはり特異だ。宗教が絡んでいるとだけ言っておくが、この動機についても評価が分かれるかな。しかし、「甦る」からこそ「殺す」という一見矛盾したような動機には、ちゃんと必然性がある。殺人には変わりないのだが。
本格としての面白さ以外には、エンバーミングという技術に関する記述が興味深い。簡単に言うと死体に施す防腐処理のことであるが、それだけには留まらない。損傷した遺体を修復し、化粧を施して生前のような姿に仕上げる。グリンはエンバーミングを受けて、肉体が朽ちるのを遅らせ、死者であることを悟られないようにしたのだ。
グリンとチェシャは、その後どうなってしまったのだろう。切ないエンディングに、ほろりとさせられる。