伊坂幸太郎 11 | ||
終末のフール |
洒脱で軽妙な文体は、伊坂作品の大きな魅力であることは言うまでもないだろう。しかし、今回ばかりはその「軽さ」がどうしても気になってしまった。
8年後に小惑星が落ちてきて、地球は滅亡する。そう発表されてから5年。崩壊した秩序は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。仙台市北部の団地ヒルズタウンでは、残った人々がそれぞれに残された3年を模索しながら生きていた。
小惑星が地球に衝突するという設定から、奇しくも同じ1998年に公開された映画『ディープ・インパクト』と『アルマゲドン』を思い出す。前者では地球に接近するのは彗星だったが、いずれにせよ人類の危機に立ち向かう「感動巨編」であった。
一方、本作の世界では地球滅亡は避けられない未来と受け止められている。伊坂幸太郎がベタな感動物を書くはずがない。舞台が毎度おなじみの仙台なのはともかく、当代随一の人気作家になった伊坂さんが、このネタをどう料理していくのか。
各編の登場人物が絶妙にリンクしているところは『ラッシュライフ』を彷彿とさせるが、『ラッシュライフ』ほど深みがない。8編すべてを読み終えると何かが浮かび上がるということもないし、一編一編もちょっといい話以上のものではない。
いわば余命を宣告された人々が、残された時間を懸命に生きる姿を描きたかったのだろうか。そう解釈するには、前向きな力強さや生きる意味が伝わってこない。うまいんですよ、相変わらず。うまいだけに、「軽さ」が際立ってしまうのである。
各編の登場人物たちは、3年後の地球滅亡を控えて悟りの境地に至り、努めて平静さを装っていると考えられないこともない。それぞれ衝突発表後の騒乱で大切な人を失っているのだが、敢えて小康状態を描いているのは伊坂さんらしいとも言える。しかし、僕は伊坂幸太郎なら秩序の崩壊をどのように描くのかに興味がある。
深刻なテーマを深刻に読ませない、伊坂幸太郎の魅力を残しつつ、どのように殻を破っていけるか。やっぱり目が離せない作家であることに変わりはない。