伊坂幸太郎 24 | ||
夜の国のクーパー |
どこか不思議になつかしいような、誰もがまったく読んだことのない、そんな破格の小説をお届けします。と、本作の帯には書かれている。待望の伊坂幸太郎さんの待望の書き下ろし長編は、伊坂流の童話とでも言うべきだろうか。
ある小さな国が戦争に敗れ、乗り込んできた鉄国の兵士に占領された。その様子をぼんやりと眺める猫たち。ところが、国を治める冠人が、人々の目の前で射殺された…。一方、仙台から釣り船に乗った公務員の男性は、気づくと見知らぬ地で横たわっていた。胸にはトムという名の猫がいた。彼(?)はなぜか人間の言葉を話すのだった…。
名もなき小国に住む、猫同士は会話ができる。それが人間の言葉なのは突っ込まむまい。古今東西、動物が人間の言葉を話す漫画やアニメは数多い。しかし、猫と人間が会話するとなると…。何か前例はあったと思うが、小説でやろうとは普通考えない。
本作は、小国で起きている出来事を猫のトムが男性に語るという形で進み、小国の様子と、トムと男性のやりとりが交互に描かれる。小国が鉄国に支配されようが、猫たちには関係ないはずだったが、知らんぷりしてはいられない事態に陥ったのだ。
猫たちに人間の会話はわかるが、人間たちは猫たちの会話がわからないのがミソ。鉄国の兵士が1人殺され、小国の人々が連行されていく。人間に伝える術を持たない猫たちに何ができる? 歴史的(?)対話を果たした相手にも協力を求める。もちろん人間だって策を巡らせようとするのだが、猫たちの決死の覚悟こそ本作の読みどころ。
絶体絶命と思いきや、明かされた真相に一瞬呆然。タイトルにある「クーパー」とは何かにも関係してくる。正直ミステリーにはありがちで、予想を大きく裏切るほどではなかったかなあ。ところが、最後の最後に本当の驚きが仕掛けられていたのである。わははははは、どこか不思議になつかしいような、というよりあれじゃないかあれ。
本作全体のテイストは、デビュー作『オーデュボンの祈り』に近い。そういう意味で、確かになつかしい作品である。これを模索を経ての原点回帰と見るか、挑戦を捨てていないと見るか。いずれにしても、伊坂幸太郎にしか書けない作品だ。